話を「聞く」ことの難しさ

2013-01-25

一度だけでなく今後も手元に置いてくり返し読みたいと思う本、いわゆる「座右の書」というのはそうたくさんあるものではないでしょう。けれどこの度読んだ本は、間違いなくその中の一冊となりそうです。

『プロカウンセラーの聞く技術』(東山紘久/創元社)

聞く技術

昨年『聞く力』がベストセラーになった阿川佐和子さんが、「この本を読むと自分が今までどれほど人の話を聞いていなかったかに気がついて、思わず吹き出してしまう」と推薦コメントを寄せています。まったく同感でした。深い人間洞察に根差した熟練カウンセラーの奥義を、わかりやすく教えてくれています。

我々施術家は、プロの心理カウンセラーでも精神科医でもありません。私などはあくまでも手技療法家のはしくれにすぎず、「心」ではなく「体」の痛みを取りのぞくのが仕事です。

しかし、施術家なら皆同意されると思いますが、この仕事をすればするほど、体の異常と心の問題が強く結びついていることを感じずにはおれません。ですから、体をほぐすだけでなく、いやそれ以上に心がほぐれてくれたらいいなと願いながら、日々励んでいます。

私もそのような思いから「聞く」ことを心がけ、関係書を読んだりもして、それなりに「聞き上手」になったつもりだったのですが・・・。この本を読んで、阿川さんではありませんが、恥ずかしくなりました。

「聞く」ことは技術である

もっとも痛感したのは、本のタイトルにもなっているように「聞く」ことは「技術」、それもかなり難しい技術なのだということです。

つまり、相手を肯定的に受け入れようとか、とにかく寄り添って聞いてあげようといった、どちらかというと感情的なものではなく(そういった心構えが大切なのは言うまでもありませんが)、学習し、意識し、訓練することによってはじめて身につけることができるスキルだということ。

寄り添って聞いてあげようと思っていたのに、いつの間にか自分の意見を述べ、指導的な立場に立っていた、なんて経験はありませんか?私はこれ、ずいぶんやってきたような気がします。いまさらながら。

このような態度は、著者によれば、自分が「聞き手」から「話し手」になってしまっており、聞いていることにはなりません。「聞き方の極意は、相手中心」。これがけっこう難しい。

プロのカウンセラーは、相手から直接非難されるような言葉を発せられても、「そうだね」と相づちが打てるように鍛えられています。(24頁)

というのですから、いかに大変なことかがわかります。

聞き上手の危険性

さらに思わず唸ったのは、聞き上手の陥りやすい危険についてです。聞き上手はけっこうなことなのだけど、「話を深めないような配慮」、「相手がしゃべりすぎてあとで後悔しないような配慮」が必要だといいます。なるほど。

私のような「素人」は、患者さんと話が弾めば弾むほど、(リラックスしてもらえた)と満足しがちです。ところが、そのあと意外にその方が続かなかったりします。そして、(あれ?あんなに盛り上がったのにな・・・)と思ったりするのです。

当たり前のことですが、人はしゃべり過ぎても疲れるんですよね。その内容が重い話だったり、秘密めいた話であればなおさら。

カウンセラーが上のような配慮をするさらなる理由は、「注意しないと相手に対してカリスマ的になりかねない」から。「けっして相手の心に侵襲し、自分の個人的影響を与えてはいけない」と。

人間は自分の考えに共鳴してくれる人が好きです。自分の信奉者をもちたいと思います。カリスマ性の強い人は、とくにこの傾向が強く、聞き手になったときも、相手の立場に立って聞くというよりは、相手の話を自分の領域に誘いこむチャンスをねらっています。(59頁)

カウンセラーはこのような病的依存関係に陥らないように注意しているのですね。

人の話を聞くときに「頼ってもらいたい自分」があると良くないのでしょう。「素直に」聞けなくなりますから。自分のために聞くのでなく相手のために聞くのですから、ほんとうに「相手中心」ということが問われます。

聞き方の極意は、相手中心なのです。心理療法の心はもてなしの心です。(184頁)

これはもう「聞くことを通じての人間道」とでも言いたくなるような奥深い話ですね。次回もこの本について書いてみます。

カテゴリー: 書評

コメント2件

  • しま | 2013.01.26 19:03

    話を聞く技術。
    私も一生懸命頑張ってますけど、明らかに修業がたりません。
    「話を深めないような配慮」、「相手がしゃべりすぎてあとで後悔しないような配慮」
    というものが私には出来ていないと、ハッとさせられました。
    本を私も買って読みたいと思います。

  • 院長もりた | 2013.01.27 15:59

    しま様
    僕もその点はあまり意識できていませんでした。心の内を話してもらえるほど「良し」としてきたように思いますが、そう単純なことではないんですね。著者は心理学者として以上に、深い人間理解をしておられるような気がします。お勧めです!

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