おすすめ本『桑田真澄の常識を疑え!』

2015-04-08

『桑田真澄の常識を疑え!―父と子に贈る9つの新・提言!』(桑田真澄/主婦の友社)

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本書は、おもに少年野球の指導者や、子どもが野球をやっている保護者向けに書かれています。また、「勝利至上主義」に対する指摘をはじめ、野球だけでなくすべてのスポーツに当てはまる内容が多々あります。

野球嫌いになってほしくない

冒頭で著者はこういいます。

<僕が書きたかったのは、野球が好きで始めた子どもたちが、どうしたら楽しく野球をプレーし続けられるか、野球を通して社会で必要なことを学べるかということ。そして、それを教える指導者とはどうあるべきかということなんだ。>(6頁)

「あとがきにかえて」で再度こういいます。

<僕は、子どもたちに野球を嫌いになってほしくないと願っています。(中略)大事なことは野球を通じて子どもたちを成長させること。つまり育成なのです。>(182頁)

これらの記述から、著者は子どもたちが野球嫌いになってしまうという危機感を強く抱いていることがわかります。その危機を回避し、子どもたちが野球を愛しながら成長できる環境をつくる必要がある。そのためにはまず、指導者をはじめとする大人たちの認識を改めなければいけない。“常識を疑え!”というタイトルには、そのような思いが込められているのではないかと推察します。

ある少年野球の風景

ここで私自身が以前目撃した少年野球の風景を二つ紹介しましょう。

一つは、たまたま通りすがりに見かけた小学生の試合でのことです。ゴロを処理しようとした選手がボールをはじいてしまいました。次の瞬間、監督が「こら、なにやっとるか!しっかり取らんかーー!!」ともの凄い剣幕で怒鳴りつけたのです。私が聞いても震えがくるほど恐ろしく不快な罵声でした。高校生ならまだしも、相手は小さな小学生です。あんな怒られ方をしたら、次にボールを捕るときにどれほど体が縮こまるだろうかと心配になりました。

もう一つは、これも偶然見かけた練習風景です。シートバッティングのように見えましたが、打っているのは大人ばかり。寒い日なのに、投手はバッティングピッチャーのようにひたすら投げ続け、それをエヘラエヘラとした大人たちが打ってはちんたら走るのです。守備位置につく子どもたちも複数ずついて、後ろの選手たちは座って控えているのですが、寒さでブルブル震えていました。聞こえてくるのは打球音と、「ワーハッハ」という大人たちの笑い声と、エラーした子に浴びせられる罵声ばかり。あまりの光景に怒り心頭になったのを覚えています。

変わり切れていない現状

このような悲しむべき状況は少しずつ改善しているように感じます。著者も<いまの日本の野球界と指導者は、確実に変わろうとしています。>(180頁)と述べています。

<しかし最後の最後、大事なところで変わり切れていないと感じる場面も多々あります。いまもまだ王様のようにふんぞり返ってイスに座り、選手や保護者に指示を出す指導者がいます。(中略)一日中試合や練習をさせてしまう指導者もいます。練習中に罵声を浴びせたり、結果論でパワハラまがいのプレッシャーを与えている場合もあります。>(180頁)

いまの子どもたちのスポーツ環境における大きな問題の一つは、保護者の負担が大き過ぎることではないかと、私は思います。練習の手伝い、試合の準備、審判役、子どもの送迎、果ては応援席の確保まで。「土日はまったく休めない」という声をよく聞きます。

負担が大き過ぎるだけでなく、監督への気遣いも相当なもののようです。「カントクさんに嫌われたら試合に出られない」という話を聞くことさえあります。あきれてしまいますが、おそらくそう珍しい話ではないでしょう。

勝利至上主義の弊害

近年は少年野球での変化球が禁じられたり、甲子園大会に休養日が設けられたりと、子どもたちの体を守る対策が整備されつつあります。それでもなお「根性論」はまだまだ根強いものがあります。

「痛い痒いを言う暇があったら練習すべし」というような風潮は、私の所に来院する小中学生の話からも伺い知ることができます。「休養も大事な練習のひとつだよ」と言うのですが、休むにはかなりの勇気が要るようです。

本書で、私がもっとも感銘を受けたのは次の言葉でした。

<子どもたちの将来を考えたら、アマチュアで大事な試合なんて一試合もない。>(27頁)

はっとしました。本当にその通りです。「すべては勝つため」といえば聞こえはいいのですが、結局その監督のためにすぎないということだってありえるのです。

「勝つことを目指して必死にやるから成長があるんじゃないか」という声もあるでしょう。それはたしかにそうです。いい加減な気持ちでやるのは、真に楽しいとはいえません。ただ、体を壊してまでやる必要があるのかどうかです。

「この苦しさを乗り越えたら、将来何にも負けない強い人間になれるのだ」という言葉もよく耳にします。本当にそうでしょうか?精神のいびつさのほうが強くなる気がするのは、私だけでしょうか。

こう考えると、スポーツって何なんだろう?、部活って何なんだろう?、大会で勝つことはそんなに大切なことなのだろうか?、とさまざまな疑問が湧いてきます。

伸び伸びと野球ができる環境を

子どもたちが輝いた目でボールを追い、その中で礼儀やチームワークを学び、体も強くなり、「絶対優勝する」ではなくて「野球が大好き」と心から言える環境を作っていく必要があります。

本書は、上に書いたような内容だけでなく、具体的な打撃、投球、守備・走塁についての技術論も満載です。野球に関わるすべての人に一読してもらいたい一冊です。このような本を出してくれた桑田さんに、感謝とエールを贈りたいと思います。

※桑田氏自身の本書への思いがこちらにあります→http://sports-his.com/other/kuwata_masumi_vol7.htm

カテゴリー: 書評
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